宮沢賢治の『やまなし』が伝えたかったこと、あらすじと考察、クラムボンの正体って?

2024/01/06

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絵本のプロフィール

作者:宮沢賢治
絵:小林敏也
出版社:好学社
発行:2013年
対象年齢:5歳から

要約

蟹の兄弟がクラムボンの死を悲しむ中、やまなしの香りに誘われて追いかける。やまなしは木に引っかかり、美味しそうだが、お父さんが子どもたちに我慢を教える。川の中の日常に潜む、生と死の物語。

この絵本から学べること


※ 項目の特性上、ここから先は本の内容に触れていきます。いわゆるネタバレが含まれてしまう可能性があることをご了承の上、お読みください。

◆死と再生のサイクル

この作品に出てくるクラムボンの正体には諸説ありますが、笑っていたと思ったら死んだと言ったり、そうかと思ったらまた笑っています。また、魚がかわせみに捕まったり、熟れたやまなしが川の中に落ちてくる描写などから、この作品は死と再生を扱っていると考えることができます。そこから浮かび上がってくる蟹の兄弟の生きる喜びがとても美しいです。

◆季節の変化、子どもの世界から大人の世界の入り口へ

物語は五月から十二月までの季節の変化を通して進行し、自然界の営みと蟹の兄弟の成長が連動しています。
五月は「クラムボン」について話していた兄弟でしたが、十二月に入るとそれについて話している様子はありません。また、やまなしが落ちてきたところで「待てば美味しいお酒になる」といった描写もされています。このことから、季節の変化と連動して、蟹の兄弟の成長、とくに兄の成長(子どもから大人の世界の入り口へ)が描かれていると考えられます。

筆者は、クラムボンの正体が蟹の兄に宿っている「幼心」「少年性」のようなものではないかと考えています。兄さん蟹は弟の蟹と比べて大きな泡を吐いています。そのことから、身体は随分大きくなったと考えられます。ともすれば、兄は人間で言うところの思春期に入っていると捉えることができます。五月の時点で失われつつあった少年性が、十二月にはもうほぼ消えている、と考えながら読むのも面白いです。この解釈で読むと、クラムボンについて無感情に会話しているのもなんとなくですが頷けます。

(もちろん、クラムボンの正体が、蟹の吐く泡、光、アメンボなどの解釈で読んでも面白いです。いろんな捉え方ができるのがこの作品の魅力だと思います。)

◆幻燈の終了

最後、”私の幻燈はこれでおしまいであります”と書かれています。幻燈とは絵や写真を幕に映して見せるもので、スライドとも呼ばれているものです。この一文があることで、賢治の頭の中にある水底の風景がより鮮やかに浮かび上がってきます。また、蟹の兄弟のモデルが賢治とトシではないか、と考えることもできます。この作品は『私=賢治』の個人的な物語であると捉えることができるのも魅力的です。

※ この項目は、ブログ主の主観に基づいて書いております。著作者様の思想や感情を反映したものではありません。
※ お子さまの心の成長や読書感想文のご参考、または大人の方の自己啓発にお役に立てたら嬉しいです。
※ まだ作品を読んでいないかたは、ぜひ書店や図書館等で探して読んでみてくださいね。


クラムボンの正体は少年心、幼心。利他的に生きようと思ったら、幼心は捨てなくてはならない


兄の蟹は、大人と子どもの間で揺れている存在として読み進めるとこの作品はより一層深く楽しめると私は思います。

クラム=クラブ(蟹)
ボン=ボンズ(坊主)→男の子
➯蟹の男の子 ≒ 兄さん蟹の中にあった少年心

賢治は利他主義に生きたいと思っていました。そのような生き方は、自分勝手で自己中心的な心=幼心を捨てなければ出来ることではありません。
幼心は笑ったり死んだり生き返ったりを繰り返しながらいずれ死んでいくものでなければならないと賢治は考えていたのでは、と私は考察しております(一方で、いつまでも少年のようでありたいという気持ちも持ち合わせていたのではないか、とも)。
いつまでも石コ賢さんではいられない、だけど、いつまでも石コ賢さんでありたい、なんて感じで。

利他主義に生きようと思ったとき、人はたくさん傷つきます。このような生き方はひどくつらいことの連続です。誰かの悪意に触れたり、他者から依存されたり。公平であることの難しさに悩むこともあれば、期待されることでプレッシャーも大きくかかります。しかし、そうであっても世界の美しさから目を背けないことの重要さを賢治はあらゆる作品で描いていると思います。この『やまなし』もその一つだと私は考えます。

最後に


この作品は、読むたびに解釈が変わるのが面白いです。現時点ではクラムボンの正体を以上のように捉えていますが、また数年後に読んだら違う捉え方をしているかもしれません(笑)。
ではでは、最後まで読んでいただきありがとうございました。

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